第六章 主役は町へ赴き、カラスが祓われそうになる

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「……で?」  会話が成り立たない。そう判断したのか、黒羽は羽崎に話を振る。 「柾の家は代々、『神治支社(しんじししゃ)』っていう、土地神の宿る社に赴いたり、その土地の民の話に耳を傾けて異変を察知して対処していく組織に属しているの。 場合によっては土地神の話を聞いてね。人助けもするから一概には言えないけれど、悪霊とか、悪さをするモノ、一般人では触れられないモノ専門ね」 「神の治むるを支へし(やしろ)。悪霊と言うか、迷の魂魄な」顔を上げながら一宮は呟く。 「それは、今どっちでもいいわ」羽崎はそれに返し、続ける。 「で、黒羽さんに傷をつけることができたのは、神社の者――特に一宮家の血筋の“気”。 気は誰にでもあるらしいけれど、彼らのモノは特殊で、“神の気”と呼ばれてるわ。“触れられないモノに触れ、祓う”力を持つの。 一宮家は今でさえ国の長だけど、力のおかげで、土地神を統べる存在として崇拝の対象だった時期もあるとか」 「祓うってオイ……つか、国の長っつゥことは」 「柾のお父様が今の長。わかり易く言えば王様、柾は王子ってところね」 「そっ、世も末だろ?」  歯を見せ満面の笑みを浮かべて言う一宮。  発言は自虐だが、どうも本気で思ってはいない。そんな言い草である。 「まっ、そんな大したもんじゃないって。そこの土地をおれの一族が管理してたから、他の国に領地として認められちゃった、的な感じで」 「普通、それは大したことって言わないか?」 「思うほど大したことないって、1回国に来ればわかる」 「そんなもんか?」 「そんなもんだ」  大きく頷く一宮、腫れた顎が痛々しい。そして、そこまで言われてしまえば突っ込みようもない。 「……そういえば、あの光ってた模様は?」  そんなわけで結城は、取り敢えず、話題を変えるという手段をとる。  単に聞きたくてしょうがなかった、ということもあるのだが。
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