第六章 主役は町へ赴き、カラスが祓われそうになる

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――遣いの青年――  夢なんてない。野望に近い理想はあるが、夢というほど、美しいものではない。  誰かはそんな発言を“ストイック”と讃頌し、誰かはそれを“鼻につく”と嫌った。  人は見た目や発言や行動――表面だけで、他人の人格を形成していく。  否定しているわけではない。むしろ助かっている。  こちらが踏み込まなければ、踏み込ませる必要もない。  強引に踏み込んでくるモノもいるのだが。  とある開店前の店、大量の“資料”が押し込められた棚、それに囲まれた中にある接客用カウンター、その前に腰掛けた九条キリヤ。  彼は、紙に文字を書きなぐっていた。  結城ユウトの部屋の掃除に関しては、羽崎等に任せている。同年代でやらせたほうが良いだろうし、九条自身も色々とやるべきことがある。  彼らにもそう言い、自分の部屋に篭ったわけだが、今いる場所はその部屋ではない。  移動方法は単純。  だが普段隠している上に、移動後に他人に入られると面倒なため、九条が居ない間、部屋へ進入できないようにしてある。  フォローは完璧。多少疑われるのはしょうがない。 「珍しいですね、受け取り前にこちらに来られるとは」  関係者専用の奥に続くドアが開き、眠気をまとい、赤い目を持った人物が現れる。片手に新聞。灰色の髪は既に後ろに流れるようにセットされ、相変わらず、シャツにはシワ一つない。  彼を表現するなら、『小人(しょうじん)を被る大人』、または『大人の空気を醸す“小人”』か。 「時間が空いたので、仕事を数個消化しようかと。アンダーソンさんは、寝起きですか」  時刻は15時を少々過ぎた頃。彼の活動開始時間である。  彼が出てきたことで察しはつくだろうが、ここはアンダーソンの店、情報屋兼派遣屋シリウス専属下請け屋『アンダードッグ』。  下請け屋とは、派遣屋の対応しきれない依頼を代わりに処理する、それを認められた者・組織の総称だ。  彼らに流れてくる依頼には『期限までに時間はあるが、危険度が高く、極度に専門的』な依頼が多い。
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