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――野原の青年――
肌に感じるのは、痛覚を焦れったく刺激する若い草。
耳に届くのは、成熟した草の織り成す不協和音。
その青年は、空を見上げた。
どこまでも澄み切った空は、青年の心を締め付ける。それを押さえこむように青年は左胸に手を当てた。
「空の色……お前は好きだったよな」
青年はその空とよく似た色の瞳を、先程まで左胸に置いていた手がついた腕で覆い、消え入りそうな声で呟く。
「俺は……嫌いだ」
その最後の一言は、その青を弾き、成熟した草の不協和音とともに音を奏でた。
物語は、留める青年の悲しみと共に。
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