第一章 物語は走りだし、主役は逃走する

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――野原の青年――  肌に感じるのは、痛覚を焦れったく刺激する若い草。  耳に届くのは、成熟した草の織り成す不協和音。  その青年は、空を見上げた。  どこまでも澄み切った空は、青年の心を締め付ける。それを押さえこむように青年は左胸に手を当てた。 「空の色……お前は好きだったよな」  青年はその空とよく似た色の瞳を、先程まで左胸に置いていた手がついた腕で覆い、消え入りそうな声で呟く。 「俺は……嫌いだ」  その最後の一言は、その青を弾き、成熟した草の不協和音とともに音を奏でた。 物語は、留める青年の悲しみと共に。
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