第六章 主役は町へ赴き、カラスが祓われそうになる

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 九条は、一応籍を置かせてもらっている状態である。  “一応”が付くのは、関わっていることが、依頼の資料の受け取りだけだからだ。  正式な構成員ならば、あと2人いる。  だが、彼らも夜行性というか、かなりの自由人なため、受け取り役の九条が必要なわけで。 「おはようございます。こんな昼早くから、よくおやりになる」  欠伸を噛み殺しながら、背の高い椅子に座り、新聞を広げる。 「1167年5月6日……『クォーロ殺害、金目当ての犯行と断定』……いやはや、違法な人体実験の情報目当てでしょう。 世間は知らないですし、しょうがないですかね」  物騒な単語をさらりと並べ、アンダーソンため息をついた。 「さすが情報屋ですね」 「貴方も、ご存知だったでしょう」 「ええ、まあ、それなりには」  そう言いながら、九条はペンを進める。 「我らが配達員は何をお考えなのでしょうかね」  アンダーソンは新聞を閉じ、椅子から降りると掛けてあったマントを羽織った。  そして、九条の手が忙しなく動くカウンターに肘をつき、赤い目を九条に向け、意地の悪い笑みを浮かべて口を開く。 「貴方の目標は、傍から見れば『復讐』と『親殺し』です。あまり美しいとは思えませんね」  九条の手は一瞬動きを止める。だが直ぐに動き出し、彼は無表情のまま口を動かした。 「構いません。世間がどう判断しようが俺は目的を達成する。それだけです」  アンダーソンは、動き続けるペンをしばらく眺める。  やがて、眉をひそめ、悲しげな溜息と共に「そう、ですか」と呟き、九条の視界から消えた。  かと思えば、食器の音がし、何かを火にかける音がし始める。やがて、香ばしい香りが漂い始めた。  起きて直ぐなので、朝食というべきか。それとも時間にならい、夕食というべきか。  それを準備しつつ、棚の一角から彼は私物の円盤を取り出し、蓄音機にセットし、針を落とした。  鍵盤や金管楽器やらの音が、会話をし始める。
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