第六章 主役は町へ赴き、カラスが祓われそうになる

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「ヒントでもくれるんですかね」 「素晴らしい、その通りです」 「……そうですか」  大げさに拍手までしたアンダーソンに対し、一瞥した程度で淡々と答えた九条。 「おやおや、反応がよろしくない。『本当ですか?』ですとか『えっ?』ですとか、おっしゃいませんか普通」  面白くない、というように首を振る。  九条は眉をひそめた。 「あなたは、俺に何を求めているんです」 「若者らしい反応とコレクションへの血の提供、ですかね」  アンダーソンは椅子から飛び降り、マントと同じ場所にあったシルクハットとステッキを手にとった。 「物好きですよね」 「大人が若者に通常求める姿勢ですよ。それから、貴方は分かっていらっしゃらない。希少価値の高い貴方の血だからこそ、コレクションとして価値があり、故に欲しいのです。 飲むなら、貴方より健康な生活をされ、血液の状態のいい女性達から頂いていますから、不要です」  被った帽子のつばの影で、赤い目が鋭く光った。  しかし、やはり姿は子供である。 「発言に違和感しかないですよ、見た目からして」  九条が苦笑しながら言う。アンダーソンは外へ通じるドアへ向かいながら 「おや、それはお褒めの言葉としてありがたく頂戴しましょう。大抵の女性はこの見た目で、礼儀が正しいと油断をしてくださる」  騙して、酔わせて、連れ込んで、食べ放題ですよ。笑顔で言うアンダーソンを見、“俺の周りはイカれてる。”九条は人知れずそう思った。  ドアノブに手をかけ、アンダーソンは振り返る。 「あ、そうでした。ヒントは“一文字上”です。それから、九条様、惚れた女は捕まえておかなければなりませんよ」  ドアが閉まる。  余計なお世話だ。と、大きく長いため息を吐き、九条は自身の部屋へ戻った。
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