第六章 主役は町へ赴き、カラスが祓われそうになる

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******  時は進んで1時間後。  結城は、部屋から出てきたキリヤと共にドアの前にいた。  頭上のプレートには、殴り書きで『代表専用』の文字。やってられるか! とでも言いたげである。  バラナル中心街、派遣屋シリウス、別棟3階。  何もない、強いて言うなら頭上に蜘蛛の巣のあるような、手入れの行き届いてない廊下。結城は、鼻が敏感というわけではないのだが、くしゃみをしたくなるような埃っぽさである。  右には、黒羽。  半歩前にいるキリヤは、先程からドアをノックしている。  だが、ドアの向こうからの反応はない。  居ないわけではない。それは確かである。だって―― 『いちいち頭を叩くな、城ノ内!』 『いちいち偉いじじい様方に喧嘩を売るからだ。すぐこの世から居なくなるような方々を相手にするなと、いつも俺は言っている』 『……お前、向こうに怒っているのか? たく、声色ぐらい変えろ、一瞬考えちまったじゃないか』 『無理だ』 ――という掛け合いが、ドア越しに聞こえてくるからだ。  声からして、2人。  低く高揚もなく重々しい声の、男性。  もう片方は、低音で強く鋭い声ではあるが、おそらく女性。  結城の脳内では、強面の男性と、短髪で気の強い荒々しい女性のイメージが構築された。  しかし、無視をされているのは変わらない事実で、キリヤは苛立ちを見せながらノックを続けた。  結城はむず痒さに鼻を擦る。  本当に、埃っぽいのである。ここへ来るまでに通った受付や本棟はキチンと整理されていたはずなのだが。  視線を巡らせる。  と、一点で動く目が止まる。  ただ、目に映っているのはただの壁で、変わったシミがあるとかそういうわけではない。  だが、視線をはずすことができなかった。  誰かと目があった。そんな具合に。 『うるさいぞ。入れ九条』  ドアの向こう女性の声が言う。それを聞き、キリヤはため息をつきながらドアを開けた。 「気づいているなら、言ってくれませんかね」  キリヤが部屋の中へと一歩足を踏み入れる。それに続いて、視線を外せないままの結城も一歩足を踏み出した。
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