第六章 主役は町へ赴き、カラスが祓われそうになる

41/48
前へ
/882ページ
次へ
「ゔっ……」  瞬間、結城は異常な寒気に襲われる。  足の先から頭まで、何か冷たいものが這い回るような。  足がそれ以上踏み出すことを拒否し、動かない。  全身がそれに支配され、崩れ落ちそうになる。  恐怖や単純なものじゃない。もちろん、それも混じってはいるが、違うものである。威圧やらともまた違う。  これは何だ、結城は混乱する。  しかし、こんな時でも、鼻粘膜は刺激に弱いわけで。 「ックシ! ……あれ?」  思いがけず結城は呪縛から解放されてしまった。離れなかった視線からも。  いやはや、空気の読めない鼻である。  隣でカラスは「ぷっ」と吹き出す。  結城はそのカラスを一度睨み、入る。  窓から入る日光のみで照らされた、少々埃っぽいものの、整頓された廊下とは違い明るい部屋。  その部屋の一角、窓際。  そこには大きな机と高級そうな椅子。  腰をかけるのは、女性。  結城は息を飲んだ。  絹糸のように柔らかそうな、白く手入れの行き届いた長い髪。  閉じられた瞳。長い睫毛。通った鼻筋。紅く柔らかそうな唇。  そこに居たのは、荒々しいなどという単語には程遠い、貴婦人であった。  先ほどの声と口調の持ち主だとは到底思えない。  その横に佇むのは、黒いシャツにスーツのようなパンツをビシッと着こなす彫りの深い男。肌の色は褐色で、刈り上げられた頭には剃り込みが入っていた。表情は動かず、仏頂面。恐怖を抱かせるような風貌。  こちらは、想像以上であるが、声の印象と違わない。  結城と黒羽が部屋に入ったのを確認すると、九条は口を開いた。 「シリウス魔法戦闘専門科1年目九条キリヤ、アンダードッグへの依頼引き継ぎ並びに、《異界の旅人》その使い魔の報告のため、参上しました」  女性は目をつぶったままそれを聞き、頷いた。  そして、結城たちに顔を向ける。
/882ページ

最初のコメントを投稿しよう!

758人が本棚に入れています
本棚に追加