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――逃走の主役 Ⅱ――
結城は走っている。
好きで? そんなわけがない。
結城は後ろを振りかえる。今度は、馬が土煙をあげ結城を追っている。もちろん、背中に人を乗せて、だ。
ただこれは夢だ。そうでなければ、こちらが困る。
なぜと問われれば、理由は明白である。
結城が走るのは、舗装されていない幅の広い道、木造の低い建物が並び、砂っぽい街。
どこからどう見ても、何度も何度も見て昨日も見た西部劇の景色。そして、追ってくるのは馬に乗り、拳銃を構えた男たちときた。
というか、さっき森に逃げ込んだはずだし、馬から逃げれてるとかおかしいし、訳が分からん。
結城はイライラしながらそう思った。
だがそうなると、さっき2人組から逃げていたのも夢かもしれない。
そういう考えも出てきた。
なぜなら、一瞬、視界が茶褐色に霞んだ次の瞬間には馬に追われていたからだ。
2人組から逃げている最中に寝た覚えはない。
現実ならば、あり得ないにも程がある。全て夢ならば万事うまくいく。
結城はムスッとした顔のまま、導き出した自説にうんうんと頷く。
傍から見れば変人である。
気持ち的に随分楽になったところで、結城は重大なことに気付いた。
“男たちが馬に乗り拳銃を構えている”
「やっべえ……かも」
ゆゆしき事態である。夢ならば当たることは万に一つもなかろうが、例え夢でも撃たれて死ぬのはごめんである。
血とか、血とか、血とか。夢でも見たくない。
どうするか。無論、逃げるほかないのだが。
そうこうしているうちに、一つの音が辺りに響き渡る。
何かが弾けたような、高音。
「!!」
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