第六章 主役は町へ赴き、カラスが祓われそうになる

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 城ノ内に急かされ、代表は姿勢を正した。 「不安はあるが、黒羽も、結城自身もなかなか面白そうだしな。いいだろう。仮生として迎え入れる。大丈夫だな?」 「大丈夫だろう。手続きに時間はかかるが」  書類は用意済みだ。そう言いながら、城ノ内は結城の目の前に書類とペンを並べた。  結城が見上げると、彼は書類を指差し、“書いていい”とジェスチャーをした。 「早いな」  感心したように、代表は言う。 「お前の“会って決める”は、ほぼ受け入れ確定だ」  城ノ内は、淡々とそれに答えた。  結城はペンを進める。 「仮生? なんだそりゃァ」 「仮生徒制度だよ。戦専は基本2年だけど、戦専の基準に達せず、訳あって教育を受けていない者がいる。そういう者は仮生徒として受け入れて、ある程度の教育を受け知識を得たとみなされれば、晴れて正式な生徒として迎えてもらえる」  頭上で、会話が繰り広げられる。  結城も気になっていたことでもあったので、一応耳を傾けながら、ペンを名前、年齢と進めていく。 「因みに、仮生の時期も年齢も制限はない。やる気がありゃいいんだ。派遣屋は、結城のように、自ら前に進もうとするものには優しいんでね」 「んだよ、情報屋が言うほど難しくねェじゃねェか」 「そんなことはない。推薦は、一般生徒の受ける試験をパスできるというだけのものだ。そもそも、推薦書も“会って決める”と興味を持たなければただの紙。試験で合格に至れば代表との面会は絶対だが、推薦は、不確実。 現に魔力を当てて倒れるようであれば、この話がなかったことになった可能性もある」  城ノ内が静かに、若干苛立ちの感じられる声色で言う。  結城の手は止まった。  いや、ここまで、何事もなくことが進んだという事実の重大さへの驚きと、少しの恐怖と、戸惑いとが、ぞわぞわと這い上がり、走るペンの動きを止めさせた。  くしゃみの存在がでかい。などという軽口を脳内でたたく余裕もない。
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