第六章 主役は町へ赴き、カラスが祓われそうになる

45/48
前へ
/882ページ
次へ
 息をのみ、しばらく書類と向き合った状態でいた結城だったが、ふと誰かに見られているような気がし、顔を上げた。  そこには代表の微笑む顔。  喋れば荒々しいが、この時の彼女の表情は包むように優しく、「大丈夫だ」と言っているように感じた。  その微笑みは、徐々に結城の心を落ち着かせる。  また視線を外せないでいると、代表は、不意にふっとその表情を崩し、子供のように歯を見せ笑顔を作った。 「《異界の旅人》という立場と黒羽や覇王の存在、それから、お前の運に感謝しろよ? ま、とはいえ、私は結城自身にかなり資質がありそうだったから認めたんだ。城ノ内の話は、まあ、頭の隅にでも置いておいてくれ。そのぐらいの心構えでいろってことだから」  分かったか? 最後、また柔らかい優しげな表情を浮かべ、諭すように代表は言った。 「……はい」  結城は頷き、書類に向き直る。  ペンを握る手に、自然と力が籠もった。 「そうだ、九条。徴収した1万オーク」 「なんのです?」 「3日ほど前のだよ。うちの有能な新入りの受付が言っててなあ」  九条がため息をつきながら、代表に紙幣を渡すのを横目に結城は書き進める。  先日、パーソナルカードを作るときに色々と手続きの方法を教えてもらっていたので、慣れたものである。  と言っても、手続きも疲れるもので、その理由が契約書へのサインである。  こちらでは、印鑑証明の代わりに、欄にある小さな模様に記入者の魔力を注ぐ必要がある。  そう、少量ではあるが、契約等にも魔力が必要なのである。  模様、それが方陣式だと彼が理解できたのはついさきほどだが。
/882ページ

最初のコメントを投稿しよう!

758人が本棚に入れています
本棚に追加