第六章 主役は町へ赴き、カラスが祓われそうになる

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――台所の少年――  軽快な音が響く。野菜をきざむ、手馴れた音が。  その横では、鍋の中で煮えるスープ。 「おし、投入!」  おりゃっ。と掛け声と共に豪快にスープに切ったばかりの野菜をドボドボ入れるのは、チビで坊ちゃんヘアーの金髪に派手な服、一宮柾である。  聞いて驚くなかれ、立場的にも坊ちゃんで一見ガサツそうに見える彼の得意分野は、“家事全般”である。 「うし、そしてメインは肉!」  楽しそうなのはいいのだが、調理中の独り言が多い。しかし、いつものことである。  そんな一宮の髪を何かが撫でる。 「んーどしたー?」  紛らわしいが、これは独り言ではない。見えない相手がきちんといるのだ。魂やらそういう類だと思ってくれればいい。  しかし、念のためにいっておこう。よく勘違いされているのだが、彼は見えるわけではない。何かがいて、それが何を伝えようとしているのか、なんとなく分かるだけだ。  言うなれば、若干気やら気配に敏感なだけである。  時々寄ってくる彼らの場合はかなりおせっかいで、結城が現れ一宮がそれを感じたとき、詳細を教えてくれたのは彼らだった。  そして、そういうことをしてくれるのは、一宮が一人でいるときだけである。気を使っているのか、他の人間が苦手なのか、どちらかである。 「ワケわかんねえ? おれもだよ」  肉に、塩やコショウを振りながら一宮は言う。  彼らの話題は、黒羽についてだ。  異界から来たのに既に空気に馴染んでいた。違和感ひとつなかったのだ。 「父上が、奴はどの世のものでもない、って言ってたしなあ」  一応報告を入れると、「そういうモノなのだ」と言う返答が返ってきた。 「それより……」  フライパンを熱しながら、一宮は紫の瞳を細めた。  未だに違和感は続いている。つまり、ここ最近の奇妙な空気の原因は彼らではなかった、ということ。 「柾、ご飯できた?」 「あー、おう。今から焼くとこ」
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