第六章 主役は町へ赴き、カラスが祓われそうになる

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 羽崎カナハの声に我に返り、作業に戻る。  肉をフライパンに乗せる。  しばらくして、香ばしい香りが漂い始めた。 「本当に、柾って主夫よね。好きなわけじゃないのに」  カウンター席に座り、カナハは言う。  一宮はスープと肉両方に目をやり、少し笑った。 「料理は好きだからさ」 「掃除は?」 「習慣?」  掃除は毎日している。と言っても、廊下等は掃除してくれるモノがいるので、キッチンと自分の部屋、そしてユウトらが今後寝泊りする範囲である。  潔癖症というわけではない。実家の習慣で、もはや癖のようなもの。  掃除だけではない、家事全般が習慣である。  神の気を持つ血筋で、国の長の一族と言えど、王族や貴族ではないのだ。  一宮はあらかじめ作ってあった煮物を皿に盛り、カウンターにおく。  すぐさまカナハは、その華奢な手の指で煮物をつまみ、口に放り込んだ。 「今日、少ないねー」  口をもぐもぐと動かしながら、カナハは言った。  肉を裏返しながら、なんのことかと考え、すぐに一宮は返す。 「レーナさん実家だし、蓮は遅くなるって言ってた。九条さんはしばらくいらないらしい。つーか、食べんなって」  最後つまみ食いを咎めてみれば、なんどかとぼけた顔で瞬きをし、その後笑顔を見せ、「嫌だ」と言いつつ、煮物に伸ばしていた手を止めた。  「どっちだよ」と一宮はつっこんだ。  全て終わり、皿に盛り、カウンターに料理を並べたところで、思い出したようにカナハは口を開いた。 「そういえば、あの2人って2日後ぐらいにくるのよね。聞いてなかってけど……それまでどこにいるのかしら?」 「東の方?」 「スバルってこと? でも、あそこは人住めないんでしょ?」 「わかんね。考えてもしかたないしなあ」  一宮は視線を窓の外に漂わせる。  窓の外ではいつもと変わらず、小さな光が瞬いていたのだった。
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