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――凡庸の主役――
空は晴れているというのに雨が降る、何かに化かされているような天気。
先程まで外は、所謂狐の嫁入りだったわけで。
「おいユウトォ。『如意棒』使いきれてねェぞォ!」
といっても、天気云々など、今の彼らには無関係である。
「無茶言うなっ……ちょぉっ」
迫る拳を『如意棒』でいなす。
素手と鉄、そのはずなのにぶつかった瞬間には金属同士がぶつかる音、そして散る火花。
冷や汗を浮かべながら、足元を狙って放たれた蹴りを軽くはねてかわす。
次が来る前に、魔力を行使し、後ろへ飛び跳ね間を取る。
派遣屋シリウス敷地内、訓連棟。
四方を壁で覆われたバスケットコートほどの広さの訓練室。土が敷き詰め固められたその場所で、結城ユウトは特訓をしていた。
実は戦専への初登校日である。
本来は午前からだったのだが、担任の都合により、午後からとなった。そのため、暇な時間をつぶそうと半ば無理やり連れてこられたのである。
特訓の名を借りた、黒羽の発散タイム。そう表現しても過言ではないモノに。
「まだ余裕だなァ……じゃ、行くぜッ」
「はぁっ?!」
間を取ったかと思った束の間、目の前に黒い影。慌てて棒を盾のように差し出しその侵攻を防ぐ。
「つゥか、避けてばっかいんじゃねェよ。つまんねェだろ、オレが」
一線を引くように目の前に差し出されたその棒を、追いつく勢いのまま両手で掴み、ぐいぐいと押しながら、口だけで笑う黒羽は言う。
「だったら、もう少し手え抜いてくんね?」
負けじと押し返しながら、結城は言った。
力は拮抗する、なんてこともなく、徐々に黒羽に押される。
「抜くかバァカ。だったら、隙を与えてくれんなっつゥ話だ」
口角を上げ、あくどい笑みを浮かべながら言う彼はもはや悪魔。
……無茶だろ。
結城は心の中で弱音を吐いた。
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