第七章 主役は惑い、英雄は働く

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――凡庸の主役――  空は晴れているというのに雨が降る、何かに化かされているような天気。  先程まで外は、所謂狐の嫁入りだったわけで。 「おいユウトォ。『如意棒』使いきれてねェぞォ!」  といっても、天気云々など、今の彼らには無関係である。 「無茶言うなっ……ちょぉっ」  迫る拳を『如意棒』でいなす。  素手と鉄、そのはずなのにぶつかった瞬間には金属同士がぶつかる音、そして散る火花。  冷や汗を浮かべながら、足元を狙って放たれた蹴りを軽くはねてかわす。  次が来る前に、魔力を行使し、後ろへ飛び跳ね間を取る。  派遣屋シリウス敷地内、訓連棟。  四方を壁で覆われたバスケットコートほどの広さの訓練室。土が敷き詰め固められたその場所で、結城ユウトは特訓をしていた。  実は戦専への初登校日である。  本来は午前からだったのだが、担任の都合により、午後からとなった。そのため、暇な時間をつぶそうと半ば無理やり連れてこられたのである。  特訓の名を借りた、黒羽の発散タイム。そう表現しても過言ではないモノに。 「まだ余裕だなァ……じゃ、行くぜッ」 「はぁっ?!」  間を取ったかと思った束の間、目の前に黒い影。慌てて棒を盾のように差し出しその侵攻を防ぐ。 「つゥか、避けてばっかいんじゃねェよ。つまんねェだろ、オレが」  一線を引くように目の前に差し出されたその棒を、追いつく勢いのまま両手で掴み、ぐいぐいと押しながら、口だけで笑う黒羽は言う。 「だったら、もう少し手え抜いてくんね?」  負けじと押し返しながら、結城は言った。  力は拮抗する、なんてこともなく、徐々に黒羽に押される。 「抜くかバァカ。だったら、隙を与えてくれんなっつゥ話だ」  口角を上げ、あくどい笑みを浮かべながら言う彼はもはや悪魔。 ……無茶だろ。  結城は心の中で弱音を吐いた。
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