第一章 物語は走りだし、主役は逃走する

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 黒いソレは、尚も結城の肌を這い、自らに沈めていく。 「クソッ……!」  耳までのみ込まれ、自分の声すら届かない。  聞こえるのは、ゴポドポという不快な音だけ。それと並行して、血の引く音。    汗が引く気配はない、頭が重い、焦点が合わない。  脱水症状、その言葉がしっくりとくる症状。結城の意識は、朦朧としはじめていた。  だが、ソレは容赦することもなく、大半がソレ自身に沈んだ結城の顔を這うように滑り、口や鼻から体内に流れ込んでいく。 「ウッ……あっつ!? ――ック」  体内に侵入したソレは器官を焦がすように、さらに熱を帯びる。  結城の意識は内と外からの焼けるような痛みと、突然始まった頭痛によって呼びもどされ、彼はその強烈な刺激に身悶えた。  頭痛は更にひどくなり、脳は口からの異物の混入に拒絶反応を起こし、咳き込み、吐き気に襲われる。  逃げたいのに逃げられない、熱いのに寒い、味わったことのない恐怖に寒気はさらに増し、鳥肌がたつ。 どんな夢だよ……風邪でも引いたのか?  嫌な感情を一気に味わいながら、結城の視界は、黒いソレに奪われ、同時に彼は意識を手放した。
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