第二章 主役は青年に助けられ、驚愕する

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――逃走の主役Ⅲ――  結城は全速力で走っている。  何度も何度もしつこくいわせてもらうが、好きでじゃない、断じて。  今回は、物凄く嫌な予感を感じながら。  西部劇な景色ではない。いま、結城は森にいる、木々が鬱蒼と繁った森に。  つまり、最初に戻ったわけだが、所々違う。  まず森だが、木は結城が記憶しているより、高く大きい。そして……  結城は後ろを向き、顔を青くした。 「だから、何で狼なんだよぉぉぉおぉぉ!!!」  そう、結城は狼に追われていた。  狼から逃げることができている点で、夢なら……、と最初は思っていたが、逃げている最中に枝で負った小さな切り傷たちは、『これは夢ではない』という危険信号をじりじりとした、一層リアルな痛みに変えて結城に伝えてくる。   ……冗談じゃない。  結城は混乱していた。  突然目が覚め、見たことがあるような森で、西部劇だけが夢だったのかと思い、しかし、2人組が何処にもいないため、よく見ると森のスケールが違いすぎ。首を傾げていたところで物凄い形相で駆けてくる狼を見つけ、逃げ始めたわけなので、処理が追い付かない。  その上、考えれば考えるほどわからなくなり、心理的な面でとてつもなくダメージを受けていた。  だが、現実ならば何時までも逃げていても埒が明かない、何か対策を打たねばならない。  というか、日本の狼は絶滅したのでは?  結城はもう一度後ろを見た。  結城は無言のまま、前を向いた。その頬を一筋、汗が伝っておちる。 「いや、無理、逃げたい」  いや、正確にいえば、既に逃げているのだが。
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