758人が本棚に入れています
本棚に追加
/882ページ
結城はポケットに意識を向ける。
先程目覚めた拍子に、斜めがけバッグの中から落ち、おもむろにポケットに突っ込んだ、ナイフが都合よく入っている。
これでもかというほど話題に上がる、流離のフリーター、飯田シュウから誕生日にもらった、持ち手が黒いスタイリッシュな物だ。
何も持ってないよりはマシかもしれない。
そう考え、取り出し握る。若干手が震えていることに気付く。
震えというモノは、意識すればするほど酷くなる。
現に、結城の足は地面を蹴りながらもがくがくと震え始めていた。
呼吸がうまくできない。筋肉がこわばり、走りがぎこちなくなる。
怖い。
そんな感情を、飲み込むように目をつぶり、喉を鳴らせば、つま先に衝撃。
「っあ……!」
いつの間にか宙に浮く体、右足の軽い痛みに、頭から血が引く音を結城は感じた。
簡潔に述べよう。躓いてこけている最中だ。
嫌な予感。咄嗟にナイフを握りながら体をひねれば、目前に狼。
全てがスローになる。
その中で、思考だけが無駄に働き、すぐさま脳内は恐怖に支配された。
狼は身をかがめ、大地を蹴り、身体を投げ出す。
その身体は、結城に一直線に向かう。
ナイフを構えるも、呆気なく砕かれ、その破片が結城の頬を切る。
「はあ?!かたっ……ヴッ!」
最初のコメントを投稿しよう!