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驚く暇もなく、結城の身体は木の幹に全身を打ち付けられた。
狼は、事も無げに綺麗に着地し、結城は木の幹を背にズルズルと地面にずり落ちる。
狼は飯にありつけた喜びを示すかのように、空に向かって吠え、結城は朦朧とした意識のなか、それを眺めた。
それまでの疲労がどっと押し寄せ、目蓋が閉じようとする。
何が夢で、何が現実か、そもそも全てが夢か、この押し寄せる疲労は何時のものか、そんなことは、もはやどうでもいい。
今現在、結城は疲れている。これはこの瞬間が現実であることを、体が認めてしまったようなものだ。
結城は恐ろしいほどに冷静だった。
遠吠えをし終えた狼が、噛みつかんと結城に跳びかかる。
「ッ!」
半ば諦めながらも、防衛本能は働き、結城は自らを左腕で庇う。
「あ゛ぁぁあっ!!」
焼けるような痛みと、左腕への圧力。
結城は死ぬことを覚悟し、だが心中でそれに反発しながらも、痛みに目をつぶった。
薄暗い森で目をつぶれば視界は黒いはず。じゃあ、今一瞬視界が赤くなったのはなぜだ?
そして、風を切ったような今の音は?
突然無くなった腕への圧力と焼けるような痛みに、結城はゆっくりと目を開く。
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