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「……さて、どうしようか」
青年は悩んだ。
風が、葉を揺らす音が耳に届く。
目の前には、左腕から血を流し、眠るようにし……いや、死んだように眠る男と、動かなくなった狼。
本来なら、助けないのだが助けてしまった。助ける義理もないのに。
実際この場に立つまで、このまま放っておくという選択肢が青年の中では主だったのだが、気が変わったようだ。
理由をつけるならば、恐らく単純な興味か。
男の身体には、うっすらと何かが巻きついたあとの様な痣があった。
彼はこの状況下でのこの不自然な痣に、見覚えがある。
といっても文献で、だが。
「そうだなあ、止血か。このままってのも問題だし、それに」
青年は狼を見つめる。
「食料も手に入ったし、良いか」
青年は呟くと、倒れた男を苦しげに担ぎ、持っていた大きな布を広げて地面に置く。
「-包め-」
青年が言うと、布はひとりでに動き、狼の屍をぐるぐると包み込んだ。
その動きはまるで布が生きているようである。
青年は包み終わった布を持とうとして、動きを止めた。
「んー、身長170チョイの男と狼……重量オーバーだな」
そう呟くと肩に乗せた男と、布に包まれた狼を交互に見る。
「……肉、横取りされないよな。むしろ肉先……? あーいいや。肉じゃなくても」
面倒だな。そう呟き、青年は歩きだした。
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