第二章 主役は青年に助けられ、驚愕する

6/21

758人が本棚に入れています
本棚に追加
/882ページ
「……さて、どうしようか」  青年は悩んだ。  風が、葉を揺らす音が耳に届く。  目の前には、左腕から血を流し、眠るようにし……いや、死んだように眠る男と、動かなくなった狼。  本来なら、助けないのだが助けてしまった。助ける義理もないのに。  実際この場に立つまで、このまま放っておくという選択肢が青年の中では主だったのだが、気が変わったようだ。  理由をつけるならば、恐らく単純な興味か。  男の身体には、うっすらと何かが巻きついたあとの様な(あざ)があった。  彼はこの状況下でのこの不自然な痣に、見覚えがある。  といっても文献で、だが。 「そうだなあ、止血か。このままってのも問題だし、それに」  青年は狼を見つめる。 「食料も手に入ったし、良いか」  青年は呟くと、倒れた男を苦しげに担ぎ、持っていた大きな布を広げて地面に置く。 「-包め-」  青年が言うと、布はひとりでに動き、狼の屍をぐるぐると包み込んだ。  その動きはまるで布が生きているようである。  青年は包み終わった布を持とうとして、動きを止めた。 「んー、身長170チョイの男と狼……重量オーバーだな」  そう呟くと肩に乗せた男と、布に包まれた狼を交互に見る。 「……肉、横取りされないよな。むしろ肉先……? あーいいや。肉じゃなくても」  面倒だな。そう呟き、青年は歩きだした。
/882ページ

最初のコメントを投稿しよう!

758人が本棚に入れています
本棚に追加