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――困惑の主役――
「――……ぅ……?」
結城は冷たい外気に重い目蓋を開けた。寝起きの体は寒さを敏感に感じ、内から震える。
地面に寝ていたせいかで右半身が痛いが、取り敢えず重たい体をゆっくりと起こす。
「……ッいて」
誤って左手をつき、痛みが走る。
痛みに顔をしかめながら、左腕に目をやる。パーカーの袖が捲り上げられ、真新しい白い包帯が手首から肘にかけて巻かれていた。
瞬時に狼に襲われた現実を思い出す。
先程のアレは、やはり現実だったらしい。
結城は一瞬蘇った恐怖に、顔を再度しかめる。
だが、じっとしているぶんには傷は痛まなかった。
狼の噛む力が思ったほど強くなかったか、特殊な薬でも塗ってくれたか。
どちらにせよ、助けてくれた人には感謝しなければならない。
結城は、血液不足で頭に膜がかかるような不思議な感覚に唸り、まだ重い目蓋を擦りながら辺りを見渡した。
「ぉお……」
視界に飛び込んでくるのは光。
そびえ立つ木々の隙間からこぼれ落ちる木漏れ日。
その光は優しく、包み込むように辺りを照らし、地面に模様を描く。
見渡す限り続く木々、結城の居る場所から離れた奥の景色は光の屈折からか、碧のフィルムをかざした様に見え、神秘的な風景を作り出していた。
風は、葉の擦れる柔らかな音を耳に届ける。
驚くべきはその木々の大きさだ。
ただ目を動かしただけでは、一本の木が視界に収まりきらないだろう。
それほど大きく、それゆえ、目の前の景色は見たこともないほど、壮大だった。
結城は、思わず溜息をもらした。
純粋に、感動してしまったのだ。
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