第十章 主役は考え、少年は唸る

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 その場所を部屋と呼んでいいものだろうか。  廊下へ出るドアはある。となれば部屋ではある。  だが、その部屋の壁や床、天井からは岩が突き出、そこからは水か滴っていた。  それだけを見れば、“洞窟の側面にどこかへ続くドアがある”そう言ってしまった方が早い。  しかし、やはり、この場所は部屋である。  あるのは、ろうそくの乗った机と一脚の椅子。  風の通らない密室、それなのに空気は呻く。  その闇は、唯一空間を照らすろうそくの火をも飲み込む。そんな錯覚を持つほど暗く、重い。水滴が地面を打つ音も、響くことなく消える。  陰湿な空気の漂う空間。椅子に座った男が物憂げにため息をついた。 「愛しい姫に残念なお知らせだよ、彼らが動く気配がない」 「だろうな」  姫、男にそう称された女は椅子に深く座り、簡単にそう返す。 「……暇なんだよね」  空間の空気の重さなど気に留めない軽い口調ではなし、片肘をつく男に、女は「そうか?」と首をかしげ、口に笑みを浮かべてから続ける。 「オマエには研究があるじゃないか」 「オレはもう指示をするだけ」男はため息をつき、首を振る。 「それに、研究したら試したいじゃないか、本物で。モルモットじゃすぐに飽きてしまうよ。最近じゃ色々規制も厳しいし、材料の調達……素人に頼まなきゃよかったかな」 「運には逆らえぬだろう? 彼がいたのだから」  女は鼻で笑い、その言葉は“彼”を思い出したせいか、苛立っていた。 「素直に協力してくれればいいものをね……」  そんな女を頬杖をついてやさしく見つめながら男は言ったが、すぐさま女の声色の変化に気付き、慌てて立ち上がる。
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