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「ああ、憎いからって殺さないでよ、そういう契約なんだから」
男はゆっくりと歩みを進め、女の座る椅子の背後へ回り、「ね?」と宥めるように静かに肩に手を置く。
「オマエこそ、だ。好奇心で邪魔してくれるなよ」
女の片眉が釣り上がる。
それを合図に男は微笑み、軽やかに女の前へ躍り出て膝まづき、その手を取り、その甲に口づけした。
「……貴女の気を損ねるようなこと、オレがすると思うのかな?」
洗練されすぎた自然な動きと慣れすぎた言葉運びに、女は呆れてため息をつく。
「オマエは研究狂いでなければ……まあ、男児が生まれれた暁にはすぐに実験材料だろうが」
「オレを癒してくれるのは、研究と理解を示してくれる女性だけだよ。他は研究材料以外の利用価値はほとんどない」
「変わった男だ」
女に言われ、男は心外だと言わんばかりに目を見開いた。しかし、直ぐに優しげな光を瞳に宿し、詩を唄うように優しくため息とともに言葉をはく。
「一人の男を愛し続ける、貴女のように純粋な女性も珍しい」
「違うと言っているだろうに」
女は舌打ちをし、眉をひそめた。
「でも、昔は愛してた。そうだろう?」男は女の手をやさしく包み込む。
「憎しみは愛。それだからこそ美しく、人々は英雄に復讐を望む。誰かが、言ってたよ」
女は馬鹿にしたように鼻で笑い、言葉を吐いた。
「今まで何度か聞いたがな。残念なことに、まだオマエからしか聞いたことがない」
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