第十章 主役は考え、少年は唸る

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――起床の主役――  早朝。目蓋を薄く開けるがまだ外は薄暗く、開かれた窓から侵入してくる少し冷えた風が、頬を撫でる。  窓から見える薄く紫がかった暁の空が、ゆっくりと揺れる。  その揺れはまだ眠い頭には丁度が良いらしく、彼を再度眠りに誘う。  何か夢を見ていた気がした。  ただそれは、夢と呼ぶにはいささかリアルで、そこに流れる空気も、音もなにもかも、その場に自分がいたようで。  気のせいかもしれないが、“見た”のではなく“見せられた”ような感覚で。  そんな感覚があるのに、夢の内容は覚えていない。 なんだそれ。異世界に来て、感覚まで毒されたのか。  次第に彼の目に映る景色の揺れは大きくなる。左肩を下にして、眉をひそめて唸った。  テーブルの上に、昨夜やっていた課題が広がったまま放置されているのが映る。「起きたら続きをやらなければ」彼は思う。  右肩に微かな圧力を感じた。誰かに掴まれているらしい。  彼はそれを払うように身体の向きを変えた。 「お・は・よ?」  瞬間、映り込んだ黒い影。 「……」少しの沈黙。 「おはっ?!」のち、驚き。  結城ユウトは反射的に朝の挨拶を返しながら飛び起きた。「よう、ございます……」  再度閉じてしまいそうになる目蓋を擦って目を開く。 「やっぱりいいわあ」  視界の中には、ベッドに肩肘をつき、ニコニコと笑う半透明。  そして、透けるその人物ごしに、寝起きの彼より眠そうな重い目蓋の顔。 「……蓮?」  未だ働かない頭で、いつもと違う光景を認識する。 「ねえ、アタシは無視なの?」  最初の驚きの原因であるレーナが、膨れっ面で結城の顔を覗き込む。 「いや、蓮がいる方が驚きだったんで」  そう言って、結城はあくびをした。
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