第十章 主役は考え、少年は唸る

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 レーナは困ったようにくすくすと笑いながら、結城の首に腕を回す。  同時に冷気が頬をなでる。 「ほうら言ったでしょ? 蓮に手を出したら、シャレにならないの」  あーこわい。穏やかな声がする。 『キリは部屋に入れない上に、やっても無反応。柾はお札張ってる。蓮は……ね』  結城は何度目かに、他に金縛りごっこを仕掛けない理由を訊ねた時の反応を思い出す。『それに、ユウトくんはからかい甲斐があるからねえ』と続くのだが、まあそれはいいとして。 「……とにかく、蓮がいたから“金縛りごっこ”じゃないんですね」  朝早いうえに驚いたが、そこには感謝だ。結城は小さくうなづく。  レーナは自らの唇に指を当て、笑った。 「蓮も困ってたからねえ、ドアを透って内から鍵空けたげたの。それにしても、ユウトくん……」  したかった?  冷たい吐息と共に耳元で放たれた甘ったるい声が、耳から入り込む。  その色気のある音は一瞬彼の息を止め、妙な寒気と共に襲い掛かり、心臓をバタつかせ―― 「――ッじゃない、レーナさん!!」  吐息の当たった場所に熱が集まるのを感じたものの、それをどうにか振り払い、レーナに咎めるような視線を向けた結城の横、 「あ、そうだ。ユート、絵ができた」  蓮が本来の用事を思い出した。 ****** 「絵って、なにもこんな朝じゃなくても……」  起きれないわけではないが、正直眠い時間帯だ。黒羽も起きていない。 「よねえ……さ。じゃあ、お休みい!」  夜型のレーナはこの時間から睡眠らしく、お休みと言いながらなぜか結城の頭を勢いよく撫で、ぐしゃぐしゃにする。 「やめてくださいよ……」  結城が髪を直しながら無表情を装って返せば、レーナは含んで笑う。 「目、覚めたでしょ?」  ウィンクをし、悪戯好きなお姉さんは部屋に去った。
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