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星も瞬く静かな夜。
彼の耳元は、うるさかった。
魔法の壁に阻まれ、行き場をなくした大気がその向こうで激しく鳴る。
阻みきれなかった大気は風となり、服を波立たせる。
そして、鼓動。
夜空の中、彼は空を飛んでいた。
いや、それでは語弊がある。彼はドラゴンであるコポ、空を飛ぶ彼に乗っていた。
向かうは、オムのカラン。一宮柾の出身地であり、実家。
そこに存在するのは、わずかな可能性。
魔法を通して、先人の見た景色の断片を覗いた。信じがたかった。
壁に彫られた文字を読んだ。目を疑った。思わぬところに繋がりがあった。
鍵が落ちているかもしれない。久々に興奮した。
居ても立ってもいられなくなった彼は飛び出した。
冷静になる前に、しり込みする前に、考えを巡らせる前に。早いうちに行動を始めなければいけない。そんな気がしていたのだ。
黒い空をゆく黒い影は、速度を増す。
人には、何かが横切ったことは分かっても、それが何かは分からないだろう。
それでも、彼には遅く感じた。時が止まっているのではないかと、錯覚するほどに。
雲を静かに追い越す。背後から星が追ってくる。
彼はドラゴンの背に額をつける。
ごつごつした肌の冷たさが、頭の奥まで染みこんだ。
ドラゴンは吼える。
その声は透き通るようで荒らしく、大気を振るわせ、眼下の大地を這い、彼の耳へ山から帰った。
彼は顔を上げる。額をつけていたその場所を2度強くたたき、立ち上がった。
下に目をやれば、風に吹かれる森の木々が、不気味にうごめいている。
彼は目を細め、大きく息を吸い、飛び降りた。
飛び降りた彼を大気は包み込むように迎え入れ、優しく彼に触れた。
ゆっくりゆっくり下っていく。実際は3秒ほどで終了したそれも、今の彼には長く感じた。
彼は静かに降り立つ。
地面を確かめるようにしっかりと踏みしめ、顔を上げる。
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