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目の前には門。
扉のないその四角は、彼の立つ場所とその向こうとを確かに隔て、その空間が全く別のものであることを知らせる。
その向こうにはどっしりと構えた、木造の家。ただ、豪華さや派手さはない。主張することなく、奥ゆかしく佇んでいた。
彼はそこに、初めて足を踏み入れることとなるのだが、それに気をかける余裕があっただろうか。
しかるべき場所から入らなければならない、その礼儀を覚えていただけましなほど、彼の神経は高ぶっていた。
彼は門をくぐり、敷地に足を踏み入れる。
鈴の音が鳴る。
予定外の来客を知らせるその音に、風が騒がしく揺れ、影から数人が飛び出した。
彼はそれでも足を進める。
瞳を、移り変わる瞳の中の空の色を、抑えることすら忘れていた彼に、人の静止の声は聞こえなかった、はずだ。
だが、数歩進んでようやく彼は足を止めた。
視線を送り、自らの首元に刃物を認識する。痛覚が、それでできた小さな傷を知らせた。
彼はそれを持つ男に静かに目を向ける。
男は額に汗を浮かべていた。
男と目を合わせ、彼は静かに口を開いた。
一言、告げる。
刃物を突き付けていた男の目の色が変わった。脱力し、静かに彼に一礼をする。男は戸惑う仲間に一言命令を投げ、屋敷の中に消えた。
残されたのは、彼を警戒したままの屋敷の人々と、静かに屋敷を見据える彼だけ。
やがて、屋敷にあかりが灯り、屋敷の戸が開いた。
ゆったりとゆっくりと、空気を乱さないような足取りで1人、女性が出てくる。
彼女は彼を見つけると微笑み、ゆっくりと口を開く。
「あなたがいらっしゃること、ずっとお待ちしておりました」
そう言って肩をすくめた。
「うちの困った神たちが」
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