第十四章 外に出た主役は、少年に問われる

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『アヤメ。どうした、戻ってきて』  声をかけられると、彼女は頭を下げ、ゆっくりと立ち上がり、部屋に入る。  衣服はゆったりと揺れ、肩ほどの長さである栗色の髪もふわりと揺れている。目尻にはうっすらと、よく笑う証拠であるしわが浮かんでいた。 『直接出迎えた手前はどう感じたかのう』 『坊主からの返答か』 『うるさいね。無視するといいよ、アヤメ』 『トラウちゃんの留守にご苦労様』  土地神達は、口々に言う。  一宮アヤメ、柾の母である彼女は、困ったように笑った。 「ありがとうございます。そうですね……キリヤさんはよい青年でした。突然の訪問には驚いてしまいましたけれども……。周りの大人がよいのでしょうね」 『アヤメも甘い。で、用はなんだったの』 「《異界の旅人》を連れて行く。そう連絡がありましたので、報告に上がりました」 『そうか。早かったな』 『圧力かけたから当たり前だね』 『アヤメちゃんも嬉しそうねえ』 「ええ、《異界の旅人》以前に柾のお友達ですもの。今からわくわくしてたまらないのです。やってみたかったの、息子のお友達をおもてなし!」  アヤメは小さくてをたたいた。目尻のしわが深くなる。  その様子に、土地神たちの水晶は、子を見て優しく微笑んでいるかのように、暖かく光った。
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