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『アヤメ。どうした、戻ってきて』
声をかけられると、彼女は頭を下げ、ゆっくりと立ち上がり、部屋に入る。
衣服はゆったりと揺れ、肩ほどの長さである栗色の髪もふわりと揺れている。目尻にはうっすらと、よく笑う証拠であるしわが浮かんでいた。
『直接出迎えた手前はどう感じたかのう』
『坊主からの返答か』
『うるさいね。無視するといいよ、アヤメ』
『トラウちゃんの留守にご苦労様』
土地神達は、口々に言う。
一宮アヤメ、柾の母である彼女は、困ったように笑った。
「ありがとうございます。そうですね……キリヤさんはよい青年でした。突然の訪問には驚いてしまいましたけれども……。周りの大人がよいのでしょうね」
『アヤメも甘い。で、用はなんだったの』
「《異界の旅人》を連れて行く。そう連絡がありましたので、報告に上がりました」
『そうか。早かったな』
『圧力かけたから当たり前だね』
『アヤメちゃんも嬉しそうねえ』
「ええ、《異界の旅人》以前に柾のお友達ですもの。今からわくわくしてたまらないのです。やってみたかったの、息子のお友達をおもてなし!」
アヤメは小さくてをたたいた。目尻のしわが深くなる。
その様子に、土地神たちの水晶は、子を見て優しく微笑んでいるかのように、暖かく光った。
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