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「いやいやいや……」
結城は首を振り、“手遅れ”を否定する。
「そ、そういえばさ、ルイさんはなんか言ってた?」
“手遅れ”から逃避し、話題を変えた。
「『近々イダがそっちへ行く、うじうじしだすと面倒だから、今のうちにガツンと言ってやってくれ』だと」
結城は、黒羽の精度の高い声真似を頭の中で何度か再生する。
「……だからか」納得した。
よくよく考えれば、おかしいと思っていたのだ。
「シュウが、“どうすればいいかわからない”のに来るわけないよな……」
飯田シュウは、一応自らやって来るときには、用件を作ってくる。
「泊まらせて」とか、「飯ちょうだい」とか、「追われてるから匿って」とか、「ジュース買いたいから150円貸して」とかというくだらない用件。なんだかんだで、結局居座るのだが。
「……あ、ジュース代返して貰ってねえ」
大したことのない貸しを思い出した。
「おお、そうだそれから」黒羽はポケットをごそごそと漁り、「覇王から預かってきたぜ」角がよれた封筒を差し出してきた。
「え? もう返事?」
というか、ルイさんからの手紙の扱いはそんな雑でいいのか。と、心の中で文句を言いながら封を切った。
指先に灯をともし、それを黒羽に預ける。
照らしてもらいながら中を見れば、高級そうな厚手の紙が2枚、3つ折りに入っていた。
その紙を開けば、流れるようで豪快な文字が、縦に並んでいる。
それを、目で追っていく。
と、その目はある1文、いや、1文字に足止めされた。
「……すっかり忘れてた」
その1文を何度も読み返し、1文字を変わるはずもないのにジッと見つめた結城は、頭を抱える。
「城かよ……?」
やっぱり、手遅れかもしれない。
一瞬そんな予感が頭をかすめるも、「いやいやいや………!」主役はまた首を振ってそれを否定する。
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