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「……店主殿、“魔女の話はご存知ですね?”」
アンダーソンは店主に問う。
だが口にしたのは、過ぎた行為を咎めることわざ。
常連客の珍しい突飛な発言に、戸惑いを見せながら「なにも伺っていませんよ?」と、店主は返した。
アンダーソンは、目を細める。
「いえ、元になった話のほうでございます」
「どうでしたかね……」
「貴方ならご存知でしょう。『リーベルトの冒険』著者にして歴史家、ホーン・アダムス先生の血をお継ぎであるあなたなら」
「……意図的にその名を出されたのは初めてですね」
店主は磨いた食器を置いた。ことりと音が鳴る。
「大陸で5つしかなかった魔術師の一族。そのひとつがアダムス一族。当主は同じ名前を継ぐのでしたね。……3代目ホーン・アダムス。彼は素晴らしいお方でした」
「知り合いでしたか」
「はるか昔の代の者が」
アンダーソンは店主に笑いかけると、コーヒーを口に運んだ。
「魔族はアダムス一族に大きな恩があります。……彼が物語を書かなければ、違う未来がここにはあった」
「私は彼ではありませんよ」
名も継いではいません。首を横に振り、困ったように笑いながら店主は返した。
「ですが唯一血を継ぐお方ではありませんか」
店主は3代目の時代の後別れた所謂分家だが、アダムス一族の血は絶え、少なくとも自らがホーンの血を引くことを自覚している者は今は彼一人しか残っていない。
珍しい話ではない。魔術師という肩書がなければ、一般の一族と変わらないのだから。
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