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ただ、一昔前なら違ったはずだ。
魔術を使える人間が少なかった時代なら。
今や魔術師一族は一般に、ただの“先天的に魔術が使える人間たち”という認識しか持たれていない。
その差が大きなものであるとは、思ってもいないだろう。
それに、彼らが先天的に使えるのは魔術でなく魔法だ。それも、人間が本来方陣式を必要とするような。
栄枯盛衰。なにかが栄えれば当然衰えるものもある。時の流れは無情。それが当事者にとって幸か不幸かは、見当もつかない。
アンダーソンは、物憂げにため息をつく。
天井のファンがゆっくりと回り、つけられた時計の秒針が動いた。
「……聞いた話ですが」魚を捌きはじめた店主が、口を開いた。
「3代目は魔術師として戦いに参加していました。特に最後の戦いは、魔族も参加していた。殺す気のない魔族と、化け物や悪魔を狩るような形相の人間。それがぶつかる様子は……目をそむけたくなるようなものだった、と」
「……はい」
戦いに参加した魔族の大半は、攻撃されることに耐えられなくなり、「人間に直接訴えたい」と願っていた者が多かった。彼らは戸惑ったはずだ。全ての憎悪が魔族に向けられている現状に。
アンダーソンに戦場がどういう有様だったのか、戦いに赴いた者に聞いたキオクはない。
それもそのはずだ。誰一人として帰ってこなかったのだから。
「……彼は悔いていたそうです。自分のやったことは正しかったのかと。そこに、アンダーという男が現れた。3代目は彼のした提案に、戦争終結後初めて笑ったそうです。彼は――」
「『未来を操ってみたくはないか』そう言った」
「そうです。『ある男の真実を少しいじるだけでいい。民に現実的な非現実を』」
「『夢のある英雄の物語を』」
「『それが、魔族と人間の心をつなぎ留める光となるかもしれない』……私はこの話が一番好きです。英雄の物語より」
「……実に馬鹿げた提案です」
「ええ、馬鹿げた夢のある提案です」
店主は肩を揺らして静かに笑った。
アンダーソンの祖父は種をまいた。あらゆる可能性を考え、あらゆる方面にあらゆる形で。現在アンダーソンの持つ繋がりは、その関係のものも多い。
物語も、その内のひとつであったのだ。
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