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「……魔女の話は聞かされはしましたが……なんといいますか、あの話は辛すぎる。……ただ実際は、魔女の話と『リーベルトの冒険』、その間に魔王の真実がある」
「愛し子と土地の神との関係の中にも」
店主は鍋を火にかけ、油をひいた。
「……『土地の神の魂は民の心に揺れ動き、愛し子の心は土地の神の指す道に引き寄せられる。愛し子は土地の感情に動かされてしまう』ですか」
「ええ。世の中に存在する事象には、必ず理由がございます」
アンダーソンは物憂げにため息をついた。
「本来議論されるべきは、土地の神が指す道がそれるほど、民の心が同時に同じ方向へ揺れ動いた事実。なのですがね……」
香辛料で味付けされた白身魚が、鍋に滑り込むのを眺めながら一息つき、店内を見渡す。
中心街からだいぶ離れた場所、その裏路地にある店。こじんまりとし、落ち着いた空気の漂う店だ。
九条様にも魔王殿にも、私にも、こういった場所のほうが向いている。
心で呟き、微笑む。
「それにしても、なぜ今さら私に?」
焼きあがったものをトーストにはさみながら、店主が問う。
アンダーソンはにっこりと笑う。
「しばらくここに伺うこともなくなってしまいますので、昔話をしてみたくなりました」
「それは……どう捉えれば?」
「さて? 強いて申し上げれば、3代目の想いが報われる時が近いということでしょうか」
そう言って情報屋は喫茶店の小さな窓を外に目をやり、微笑んだ。
「ほら、狼煙が上がりますよ」
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