第二十四章 “その日”それぞれの約束は帰る(前半)

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「君と母について、少し考えたんだ」  魔王は口を開く。 「果たして、僕に呪いをかけさせたのは、君なのか母なのか。……君が僕を死なせないことに捕らわれているのは、なぜなんだろうね。呪いにかかっていなければ、ただの魔族である僕を生かし続けるのは、いったい誰なんだろうか」  目が覚めてから、幾度となく考えてきたことだ。  疑問が深まったのは、息子に出会ってから。  魔王は、洞窟に広がった偽物の空を仰いだ。 「……愛し子っていうのは、土地神と密接に関係するらしいね」 『土地の神の魂は民の心に揺れ動き、愛し子の心は土地の神の指す道に引き寄せられる。故に、愛し子は土地の感情に動かされる』  調べ歩いていた時、目にした文献。  重なったのは、母親の豹変だった。 「僕は知らなかったよ。僕や、人間である母が愛し子だったなんて。……リーリエンの土地神が、否、君が愛すのは、魔族だとばかり思っていたから」  情報屋に問いつめ、得た事実だ。  戦後、土地神と愛し子が離されるようになった理由。それが、母親だった。 「君は空の民を憎んでいる。僕を愛してくれていた。 ……これが人の心理ならよくあることだ。だが、リーリエン、スバルの首都にいる土地神としてはどうだろう。その感情は矛盾している」  そこに住む民である魔族が空の民を崇拝しているならば、その影響を受ける土地神が空の民を憎むはずがなかった。
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