第二十四章 “その日”それぞれの約束は帰る(前半)

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「急いできてみれば、そういうこと」 目を開ければ部屋の入り口に、青年が、呆れた顔でそこにいた。  青年は、躊躇することなく洞窟の部屋へと踏み入れた。  一歩進むごとに部屋の空気は彼に染まり、歓迎するように集まる空気が、彼の羽織るマントを揺らす。  静かに魔王の隣に立ち、前を見据えるその瞳は、空を移したように澄んだ青で満たされていた。 「早かったね。地下へは行ったんだろう?」 「行ったさ。あんな記憶の戻しかたされたら行くに決まってる。まさか、時間稼ぎだとはね」  なんのヒントもなしに。青年の蔑むような目に英雄はたじろぐ。  だが、ヒントなら、残してきたはずだった。 「え、壁にここの座標を」「気付かなければ意味がないよ」  きっぱりと言い切った青年は、どこからともなくナイフを取り出し、くるりと回す。  柄の黒い折り畳み式のナイフ。  英雄は、そのナイフに見覚えがあった。 「それ……ユウトに渡した……」 「そう、そのナイフが鍵になったんだ。……オヤジがユウトに渡したこのナイフに刻まれていた式……ユーイが基地に組んだものとほとんど同じでね。その場所が認知できない、特定のモノの侵入を防ぐ寄生型の式。 ……ユーイがなんでこの式を知ってたのか、ずっと引っかかっていたんだ。でも、ここへきて謎が解けた。ここの式も同じだ。 あとはまあ。オヤジの魔力の痕跡辿らせてもらったよ」  どうやら、なにもしなくともたどり着けたらしい。
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