第二十五章 “その日”それぞれの約束は帰る(後半)

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――狂騒の舞台裏――  レウス王城。避難場所として開放された中庭は、混乱を極めていた。  怪我人は呻き、駆けつけた医者は指示を飛ばし、子は親を探して泣き、親は子を探して城の者にすがり、泣き声に苛立つものが怒り、それにまた誰かが怒り、それを誰かがいさめ、おびえる者は隅にうずくまり、幾分か冷静になれた者は気丈にふるまい、城の者は様々な声と感情の間を縫って城になだれ込んだ市民の身元を確認して回る。  自らの身内の安否を気にかけながら、城の者は、必要なものを求め城の中へと消える。  城の中では白い石材でできた床の上を、足音が行き交っていた。  洗面器から零れた水や、手から落ちた包帯が廊下を汚すが、行き交う者たちはそれどころではないと駆け抜ける。  その内の1人の足音が、人気のない城の奥へと向かった。この青年、実は春に城に仕え始めた新人なのだが――まあこれは掘り下げる必要もあるまい。  いつのまにやら、青年の足下は青い絨毯へと変わり、足音も響かない廊下は不気味なほどに静まっていた。  やがて見える重厚な扉。その脇には、魔術師が2人。  城の青年が敬礼すれば、魔術師が敬礼を返し、静かに扉を開ける。 「失礼いたします!」  その扉の向こうから、忙しない空気が廊下に漏れ出した。
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