第二十五章 “その日”それぞれの約束は帰る(後半)

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「オムはあの魔力な……件のドラゴンライダーの何を知っているというのです」 「あなたが知らないことを」 「ドラゴンに好かれている時点で、只者ではないのは明白では?」  そういって笑うオムの2人は、何かを待っているようである。  どこか緊張感の失われつつある応接間。 「――しかし、あの光の後に事が起こったのは事実。なんの被害もないのなら、なんのために放ったのでしょうな」  これはいけない。とレウスの大臣の一人が不用意に問を放つ。  その答えは、大臣の意に反して、すぐに与えられた。 「主の帰還を示すために決まっておりましょう」  幼くも芯のある大人びた響きを持った声が、応接間にいる人々の鼓膜を震わせる。  その場にいる全ての人間が、その声にはっとし、その声の方へと一斉に顔を向けた。が、揃って声の主と目線を合わせることに失敗し、皆ゆっくりと視線を下に落とす。  「やれやれ。今の者は、言ノ葉の光もご存じないのですか」  シルクハットを目深にかぶり、仕込み杖を床につき、扉の前に胸を張って立つ小さな彼がそこにはいた。  彼は応接間の視線が全て自らに集まったことを確かめて微笑むと、青い絨毯を踏み、一歩前へと進み出た。  羽織る外套が、はらりと揺れる。 「なぜここに子供が?」  連れ出しなさい。大臣の命令にレウス派遣屋代表が彼に近づき、小さな肩を乱暴につかむ。 「どこから入った」  子供を叱るように厳しい声をだすレウス派遣屋代表の手に、少年は静かに自らの小さな手を重ねた。  その手の冷たさと帽子のつばから覗いた紅い瞳にレウス派遣屋代表はたじろぎ、次いで襲った立ち眩みに、彼はよろめき、膝をつく。  赤子の手をひねるよりも簡単にあしらわれてしまった、レウスの強者。  少年を知らぬ者たちは一気に警戒を強め、彼を知る者は「なぜここに彼がいるのか」と困惑し、彼の野望を知る者は「ついにきたか」と覚悟と諦めの入り混じった複雑な感情をもって彼を見た。
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