第二十五章 “その日”それぞれの約束は帰る(後半)

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「裏口です。しかし、私は招かれてここにいるはずなのですが」 「報告は受けていないぞ」 「ああ、彼は私が招き入れたのです」飛龍の長、クサハがふわりとほほ笑んだ。  そのクサハに会釈をした小さな彼は、静かに帽子を脱ぎ、それを胸のあたりに置く。 「挨拶が遅れまして申し訳ございません。私、バラナルにて、シリウス派遣屋の下請け屋、そして、情報を扱うことを生業としております。吸血鬼のアンダーソンと申します。以後お見知りおきを」  灰の頭を下げ、恭しくお辞儀をする。 「魔族の情報屋がなんの用で」 「みなさまに有益な取引材料をお持ちだそうですよ」 「取引? 今の状況で?」 「ええ。今の状況だから」  クサハとレウス派遣屋代表が会話をしている隙に帽子と外套を置き、アンダーソンはぽんと一度手をたたいた。 「さて皆さん。特にレウスの方々に置かれましては、気がついておられるでしょう。この一件。爆発や暴動の主犯を捕らえたところで、解決はいたしません」 「どういうことですの?」 「黒幕がいるのでございます。タレア皇女(おうじょ)」  微笑みの奥に潜む血のように赤い瞳が、ぎらりと光る。 「爆弾魔に暴動、王や覇王に向けられた刺客、変死体に不審死、魔物の凶暴化の異常発生、人攫い……これに通ずる黒幕。名は、もうご存知の方も数名いらっしゃいますね、魔術学者のオーザン」  一部の人間が息をのみ、アンダーソンに向ける視線を尖らせた。  どこまで知っているのかと探るような視線に、アンダーソンは満足げに微笑む。 「私実は、彼のことを前々から探っておりまして。……レーナさん」 「はーい」  紙束を抱えた彼女は、唐突に宙に現れた。
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