第二十五章 “その日”それぞれの約束は帰る(後半)

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「はじめましてー」 「レーナさん。王や皇女(おうじょ)の御前で失礼ですよ」 「でも、このほうが面白いでしょう?」  頭上で手を振るレーナを諭し、アンダーソンは「失礼」と続けた。 「彼女は心王様の愛娘で、ゴーストのレーナです。彼女に情報を集めさせておりました。黒幕を裏で手引する裏切り者の名前ですとか」 「これでーすよ」  降りてきたレーナが、4つの束をぺらぺらとめくって見せる。 「裏付けは、レウスは猫目、タレアはオンドル、バラナルは私が」  猫目、オンドルは、以前手紙を送っていた協力者のことである。各国でそれなりの地位におかれている者たちだ。因みに、オムは土地神のひとりウーに、“情報提供”という形で送っていた。  なぜオムだけ情報提供かといえば―― 「オムだけ不公平では?」 「私としたことが、神口(しんく)様には勘づかれてしまったのです」  指摘にアンダーソンが苦笑すると、神口は微笑む。  どんなに極秘裏に動いても、勘には叶わなかったのである。 「ですので、情報提供という形を。……もちろん、この件に関する事のみにございます。いずれの国が有利になるような情報には、一切触れておりません。私に流れる魔族の血にかけて」  アンダーソンは、愛おしい者に触れるかのように優しく、自らの胸に手を当て、ゆっくりと目蓋を閉じた。 「もし、信用できないというのであれば、この場で自白の呪いをかけていただいても構いません。……ただ、魔族を……いえ、吸血鬼の性分をご存知ない方には、いささか衝撃的でしょうが」 「そうだな……。貴方の持つ様々なキオクと感情を引き受けるには、心構えが必要となる。言い伝えが正しければ、ここに居る内の数名は、10日以上悪夢の中をさまよう」  今にも自白の呪いをかけそうな自国の役人たちを牽制し、レウス国王は、小さく息を吐く。 「もったい付けずに、言ったらどうかね。貴方がここにいるわけを」 「流石。陛下は聡明でいらっしゃる」  アンダーソンはレウス国王に深く頭を下げてから、口を開く。 「確認をさせていただきたく参りました。スバル国王、その補佐役として。再建時の約束事を」  確認のための、事実を口にし始めた。
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