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「500年以上前のことです。スバルが消滅する直前。私の祖父、アンダーは此度と似たような形で交渉の席につきました。……スバルが示した材料は、今あなた方が使われている方陣式。それから、すべての罪をかぶってスバルという国を捨てること」
2本の指を立て、それを強調するように掲げた彼は、部屋の奥へと一歩、また一歩とゆったりと足を進める。
「ここにおられる皆様の大半は、ご存じのはずです。方陣式がなぜ必要なのか」
ちらりと聴衆を見やる。
問いかけに疑問符を浮かべる者や、知るもの同士で耳打ちをして確かめ合う者、苦い顔をして周囲の反応をうかがう者。アンダーソンは、目的に必要となる者の顔のみを見て、言葉を続ける。
「方陣式はいわば薬です。人間が魔族となることを防ぐための。……ある日突然、自らの姿が別のモノへと変わる。これほど恐ろしいことはございません。それを運命と受け止めることができればよいのでしょうが、誰もがそのような心持で居られるとは限らない。……先の混乱を恐れた大陸は、方陣式を受け取り、人間に生まれた以上、誰しも魔族になりうるという受け入れがたい事実を目立たぬ場所へ置くことにしました。
つまり、大陸は我ら魔族の示した約束をのんだ」
レウス国王の隣へたどり着き、足を止める。アンダーソンは胸を張り、応接間を見渡し、小さく息を吸った。
「来たる日、スバルを再建する際には、大陸はこれに一切口出しをしないと」
こちらが、当時の契約書です。そう掲げた紙には、筆跡の違うサインが3つ。
「我ら魔族は、スバルを再建します。先ほど、レース会場にて多くの方がご覧になられた、我らが灯火の下で。……ドラゴンの襲撃にあった村で、空の民は滅びた。そう思われていた方もいらっしゃるでしょう。ですが我が主は、スバルの地に住む魔王に命を拾われ、今日日まで育てられてきた」
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