第二十五章 “その日”それぞれの約束は帰る(後半)

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 応接間が静まる。  ただ静かなだけではない。ある者は応接間の空気を読み、ある者は状況を整理し、ある者は立ち回りを考える。彼の発言がなにを意味するのか、各々がそれぞれの立場で吟味し、考えを巡らせているようだった。  その状況を、満足げにアンダーソンは眺める。  と、応接間の扉が、勢いよく開き―― 「報告いたします!」息を切らして、城の者が飛び込んできた。 「空が……! 山脈を覆う雲が……!」 「空が日を無視して色を変え、山脈より朝靄(あさもや)のような雲が立ち上っているのでしょう?」  肩を震わせる城の者に、今度はなんだとどよめいた応接間だったが、すぐさま飛び込んだ凛とした声に引き寄せられた。  嵐の中で灯台を見つけたかのように。ただ、その灯台は、陸にあるのか定かではないものなのだが。 「我が主は、オーザンの元へ飛びました。元凶と戦っておられるのです」  息をのみ次の声を待つ者、訝しげに眉をひそめる者、数名がその空気をおもしろそうに眺め、一部はもうすでにどうとでもなれと考えることを放棄していた。 「よろしくて?」  そんな中、タレアの皇女(おうじょ)が控え目に手を挙げた。  咳払いをした彼女は、困ったように眉を下げて笑う。 「つまり……こういうことなのかしら? この事件を片付けるから、再建を認めろと。……夢を描くのは結構ですけれども、それだけの条件で大陸が動くだなんて……。うわごとは余所で口にしたほうが、あなたの為よ?」 「いえ。再建は決定事項でございますので。此度(こたび)の事件の解決は、我々からの贈り物にすぎません」  あろうことか皇女(おうじょ)のからかいをきっぱりと断ち、 「我が主はまだ若い」  アンダーソンは、笑顔で続けた。 「つきましては皆様に、ご助言を賜りたい。ただそれだけのことなのです」  “大陸は一切口出しをしない”。その、彼らに必要であるはずの約束事を、堂々と捨てて見せた。
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