第二十五章 “その日”それぞれの約束は帰る(後半)

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――決意の主役――  視界に飛び込んだのは、淡い翠。 「生きてるかァ」  耳に届いたのは、やる気のなさそうなカラスの声。  主役は冷たい床に伏したまま、力なく笑った。 「死んでるかも……。肉裂けて骨も折れたはずなのに、痛くない」 「土地神さまさまだなァ」  結城ユウトはゆっくりと左腕を動かした。直に衝撃を受け止め、あらぬ方向に折れていたはずの腕は、何事もなかったかのようにそこにある。打撲のあともない。  左手の感覚を確かめるように、指を曲げて握り拳を作り、それをまた開く。なんどか繰り返して、大丈夫であることを確かめ、床に両手をつき、上体を起こした。  魔術で貫かれた右肩にも、異常なし。  起きた拍子に、頭の傷から流れて髪を濡らしていた血が、床に垂れる。  床に転がって負った裂傷があるはずの頭。多少だるさと頭痛は残るものの、そこからの出血はもうないようだった。  服を捲って腹を確認する。背後から魔術で貫かれた傷があるはずのわき腹は無傷だ。  同じく魔術がかすったせいで抉れた左腿も、やけどを負った右足も、血のあとやらのそこに傷があった痕跡だけを残し、消えていた。
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