757人が本棚に入れています
本棚に追加
「んでェ? 収穫はァ?」
「ああ、わかったよ。オーザンが自分で直接殺さないこと」
『殺してあげたくて仕方がなかった』そうは言いつつ、妻は病気で死んでいる。ユーイの最期はわからないが、サンプルである体は変わらず残してある。クォーロや夜南は、間接的に。
ただ、わずかな良心が――ということではないのは確かだった。自分の持ち物に傷をつけたくないとか、直接手を汚したくない、もしくはそれ以外の、理解しがたい、否理解したくもないポリシーがオーザンにはあるのだろう。
「だからユーイは16年も信じちゃったんだ」
信じたいものにとっては、一筋の希望にも映りうる。
「ま、助かったことにはかわりねェ。今なら、逃げられそうだなァ」
「……黒羽」
逃げ道を探そうとする黒羽を引き止める。
ちらりと結城を確認し、下唇を突きだして、見てはいけないものでも見たように一度目をそらした黒羽。彼は大きなため息をつきながら頭を掻きむしり、やがてポケットに手を突っ込んで面倒くさそうに振り返った。
「正気か?」
「うん、ダイジョブ。血迷ってるよ」
結城は眉を下げて笑った。
「でも、これは自分の意志だ。それに、オーザンならもう怖くない」
「異世界きて狂っちまったらしいなァ。感覚」
「そうかもしれない」
「アァ。久々にイイ面してんのも癪だ。ったく、覇王に頼まれたってのによォ」
「なにを」
「絶対戦わせるな。ってな」
「いつの間に?」
「さっきだ。覇王の行動と言葉合ってなかったろ」
結城は爆発前の彼らのやりとりを思い出した。「ああ、あれか」思い返しながら翠のキツツキを放す。
キツツキは結城の周りを飛び始めた。
「でもその約束なら、ダイジョブだ。破らない」
結城ユウトは『如意棒』を手に取り、立ち上がる。
「一発、殴りに行くだけだからさ」
最初のコメントを投稿しよう!