第二十五章 “その日”それぞれの約束は帰る(後半)

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――気取(けど)る英雄――  洞窟の青空は、曇っていた。  暗雲というより、薄い雲がぼんやりかかっている、という表現のほうがふさわしいその空は、術者の心境を映しているからなのか。  彼の瞳は、目の前で繰り広げられる激しい攻防を映している。 『倒す気がない……倒す気がない!』  女の悲鳴に近い高笑いが聞こえた。哭いているようでもあり、怒っているようでもある、聞くに堪えない悲しい声だ。  その声が広がると同時に黒く染まった炎が波打つように広がり、その場を焼き尽くす。  黒々しい炎に飲み込まれる青年。  咄嗟にのばした手は、壁に触れた。黒い炎を隔て、英雄の前には頑丈に壁ができている。 「五条【黄牛(あめうし)】―圧せ―」  英雄の心配は余所に、黒い炎の隙間から、黄の光が漏れ始める。  淡い光は炎を包むように自らの色で染め、緩やかに広がったのち、英雄のいる場所まで道をあけるように炎を方々へおしやった。 「六条【白虎(びゃっこ)】―憑け―」  光が白へと変わる。広がった光は一瞬にして収束し、次には英雄の隣でゆらゆらと漂っていた。白の光を纏う青年が、胡座(あぐら)をかいて座る英雄を見下ろす。 「早くそれ破れ」 「土地神が作った結界を僕が?」 「できないとは言わせない。ッ」  鞭状になった黒炎が、英雄と青年の間に振り下ろされた。  青年は飛び、「―解く―」黄と白を解く。
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