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――気取る英雄――
洞窟の青空は、曇っていた。
暗雲というより、薄い雲がぼんやりかかっている、という表現のほうがふさわしいその空は、術者の心境を映しているからなのか。
彼の瞳は、目の前で繰り広げられる激しい攻防を映している。
『倒す気がない……倒す気がない!』
女の悲鳴に近い高笑いが聞こえた。哭いているようでもあり、怒っているようでもある、聞くに堪えない悲しい声だ。
その声が広がると同時に黒く染まった炎が波打つように広がり、その場を焼き尽くす。
黒々しい炎に飲み込まれる青年。
咄嗟にのばした手は、壁に触れた。黒い炎を隔て、英雄の前には頑丈に壁ができている。
「五条【黄牛(あめうし)】―圧せ―」
英雄の心配は余所に、黒い炎の隙間から、黄の光が漏れ始める。
淡い光は炎を包むように自らの色で染め、緩やかに広がったのち、英雄のいる場所まで道をあけるように炎を方々へおしやった。
「六条【白虎】―憑け―」
光が白へと変わる。広がった光は一瞬にして収束し、次には英雄の隣でゆらゆらと漂っていた。白の光を纏う青年が、胡座をかいて座る英雄を見下ろす。
「早くそれ破れ」
「土地神が作った結界を僕が?」
「できないとは言わせない。ッ」
鞭状になった黒炎が、英雄と青年の間に振り下ろされた。
青年は飛び、「―解く―」黄と白を解く。
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