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『ならば、なぜ死なない!』
彼女の叫びに応えるように、囁きの波が渦を巻き、青年をのみ込んだ。
避けずにその渦にのまれた青年は、囁きに耳を傾け、それ慈しむように目を細める。
「……あなたたちがいうように、俺や空の民を護るために、何人もの人が死んだよ」
『そうだ……! オマエたちが、いつも元凶なのだ。だから――』
「だからだよ」
淡い橙が、彼の周囲で揺れた。
その橙は、偽の空や暗い囁きの波をも染め、柔らかに広がる。
「俺は、彼らが、親が、ユーイが……みんなが護ってくれた俺の世界を嫌いになれないし、簡単に捨てられないんだ」
開いた青年の瞳が、ゆっくりと移り変わる。闇夜から明けの空へ、どこまでも澄んだ青へ。どこまでも優しく、だがどこか悲し気で、しかし確かに強さを持つ空の色。
そんな、英雄がそれまで目にしたよりも広い空が、彼の瞳の中に広がっていた。
「いやあ。素晴らしいね」
そこへ、水を差す者がひとり。
「それにしても、息子が空の民にそこまで気に入られるなんて計算外だった。もっと利用価値はあったかもしれないな」
色づく大気を満足そうに眺め、深く息を吸い、大きく何度もうなづく彼は、心にもないことを困ったように、表面だけで笑って口にした。
「オーザン……」
青年、キリヤの瞳は揺れ、瞳の色に影が落ちる。
「それでもやはり、あれは本当に出来損ないでね。最期には親に牙を剥くのだから救いようがない。でも一応あれのおかげで、材料の感情をコントロールする必要性を知ったわけだけれど」
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