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わざとか無意識か。オーザンはキリヤの感情を逆撫でするような言葉を連ね、同意を求めるように「ねえ?」と心底困ったように眉を下げた。
『……ネズミ2匹に時間がかかったな』
「おっと、ごめんね。……しかし、そんなに気を立てて、どうしたんだい?」
怒る魔女の声。
オーザンは、人の姿を手放しかけている魔女に駆け寄り、一瞬の迷いも見せずに黒い炎に包まれた彼女の手を取った。
『花が持ち出された……』
「なるほど彼はそれで……。ミカを逃がすために必死だったわけだね」
オーザンは宥めるように魔女の手を撫でる。
愛おしいものを見るように目を細め、恋人を扱うように丁重に。
ふたりの世界。そう表現するのが常であるが、イダには、ひとりが勝手に盛り上がって愉悦に浸っている、“ひとりの世界”にしか映らなかった。
条件付きの女性信仰と不老不死への憧れの成れの果てか。彼はそれで幸せなのだろうが、信仰も過ぎれば異常、愛だとしても異常である。
「……ミカになにをしたんだ」
キリヤの声が、ひとりの世界に待ったをかける。
「なにも? 魔族の子供と逃げているところでね。《異界の旅人》に邪魔をされたんだ。君を先に捕らえれば……なんて思っていたけれど。じゃあ、今すぐ追うことにしよう。安心して、我が姫」
問いに答えたにもかかわらず、未だ自らひとりの世界にいるらしい。もっとも放っておかないであろうキリヤの前で、愉しげに追うことを宣言したオーザンは、跪き、魔女の手の甲に口づけをした。
しかし、英雄の心はそれどころではない。
偽の空に暗雲が立ち込める。
「……ユウトがなんだって?」
英雄の口から自身でも驚くほどの低い声が出た。
その声に、キリヤが驚いた表情で振り向き、オーザンや魔女もイダへ向く。
「おお、魔王様のほうがお怒りで? 僕とユーイの関係が気に食わないだなんだって煩いものだから、黙ってもらっ」
「生きてるから落ち着け」
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