第二十五章 “その日”それぞれの約束は帰る(後半)

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「とどめも刺さずに、勝手に殺さないでくれ」  人の言葉を遮ったのは、呆れた顔の結城ユウトだった。  どういった心境なのか、普段の彼なら(・・・・・・)、通るのさえ戸惑うであろう入り口のど真ん中に仁王立ち。  ただ、どういうわけか傷はないものの、服の血での汚れと破れが目立つ。この場へ来る前に、相当な目にあったことは一目瞭然だった。  生きていたことに安堵はしたが、イダは焦る。 「また来たのかい? 死んでいようが生きていまいが、君の役目は終わっているだろう?」  皮肉にも、ため息をつくオーザンが、イダの心を代弁した。  花を――魔女の心臓を持ったミカを逃がしたのなら、それだけで十分だ。命拾いをしたのであれば、逃げればいい。逃げてほしかった。それが、イダの心境だ。  どう見ても、一発殴ることができればラッキーという絶望的な力の差がユウトとオーザンの間にはあるのだから。 「いや、約束がまだ残ってんだよなぁ」  ユウトが面倒くさそうに頭を掻く。 「ユウト」 なんで今日に限ってそう不真面目なのだ、らしくない。  そう苛立って拳を置くと、結界がひび割れた。「え゛」  驚いたイダは手元を凝視し、「あっ」キリヤに渡されたナイフを見て声を上げる。  偽の空から、僅かに光が射す。 「散々好き勝手やってきたおめェはすっこんでろ」その隙にらしくない(・・・・・)悪態のつきかたをしたユウトが駆けだした。 「え、まっ……!」状況を思い出し、慌てるも時すでに遅し。  顔を上げた先、あろうことか真正面から突っ込んだユウトが、『如意棒』を大きく振りかぶった。  オーザンがその様をあざ笑い、見せつけるように丁寧に方陣式を描く。  空を切る『如意棒』に、ひらりと華麗にかわすオーザン。  式が細く鋭利な無数の錐へと変わり、ユウトの体を貫いて天を刺す。  散る赤、去る音、止まる時。  なぜかオーザンの顔から笑みが消え、   ぶわっと、黒い羽根が舞った。
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