第二十五章 “その日”それぞれの約束は帰る(後半)

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――(たわ)けの鉄槌―― 「力のない俺が、正攻法でこの世界の人間に勝つのは無理だ」  立ち上がってから、主役はこう切り出した。 「俺にあるのは、『如意棒』、キリヤの解き忘れ、解放してない魔力とユーイから貰った力、あと……黒羽が居る」  噛みしめるようにあるものを数え、刻み込むように現状を口に出して整理する。 「オーザンは、俺がもう死ぬと思ってる。勝機があるとしたら、今しかない。……ただ、シュウとキリヤが近くにいるからな、俺に対しての警戒はなくなっても、他への警戒はしてる。つまり……、俺への油断は、ほぼ意味がない」 「そうだなァ。で、どうするんだァ?」  もうすでに話が見えているのか、にやつくカラスの問いに、主役は口を開いた。 「油断を隙に、無理矢理変える」 ―――― ―― 「残念、偽物ォ」  偽の自分が貫かれるさまを見て、結城ユウトは扉の陰から飛び出した。  派手に散った黒い羽根が、オーザンの視界を覆っている。  そこへ目掛けて走る。  足に意識を向けた。  ちりっと熱が走り、スピードが増す。  その視界の隅に、投げ出された『如意棒』が映った。 手は放しても魔力は離さずに。  腕を限界まで伸ばし、ぐっと引き寄せるように引く。と、『如意棒』は吸い寄せられるように(あるじ)のもとへと戻る。  オーザンまで、あと少し。 「黒羽!」叫ぶと、同じ顔に化けたそいつがにやりと笑う。 「耐えろよ、ユウトォ!」  黒羽が指を鳴らしたその途端、どくんと心臓が脈打ち、内側から沸騰するような熱さが体中を駆け抜けた。
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