第二十五章 “その日”それぞれの約束は帰る(後半)

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――虚心の青年――  突発的に発生した大きな魔力の波は、その空間に嵐を巻き起こした。  淡く碧い光がその嵐を侵食し、一匹の龍に見えたのは、気のせいだっただろうか。  とかくそれは一瞬で、嵐が収まって目に留まったのは、異界から来た少年が、その足元に横たわった魔術学者を見下ろしている様子だった。 「ざまぁみろ」  そう吐き捨てる少年の背中は、青年の中にある死んだ友人のものと重なる。 「ユ」「ごめんキリヤ。駄目だったんだ」  “ユーイ”と呼ぼうとしたのか、“ユウト”と呼ぼうとしたのか。青年――キリヤにもどちらだったかわからない。その、口をついてでた呼びかけを止めるように、少年が口を開いた。 「殴ってやらねえと、駄目だったんだ」  振り向いた彼は、本当に“ユウト”だったのか。  満足げに笑った彼は、キリヤに確かめる時間も与えず、その場に崩れ落ちるように倒れた。  倒れた魔術学者に目をやる。  あれだけの魔力を直に浴び、【碧鱗(へきりん)】で殴られたのだ。しばらくは目覚めない。初めてその力を使ったであろうユウトも同じく。  キリヤは冷静に分析する。  【碧鱗(へきりん)】を何故ユウトが使えたのか、何故ユーイに見えたのかはさておき、力が大きく膨れ上がった原因は、出会った当初と同じ。一時の感情に、魔力が左右されたためにもたらされた結果だ。しかし、そうだとしても―― 「……すげえな」  魔術学者はもちろん、一瞬とはいえ魔女をも怯ませた。彼らの力を凌駕したのだ。本人に、自覚なんてないだろうが。  黒羽に“こっちに構うな”と手を振られ、視線を元に戻した。  魔女が立ちふさがるその先で、囚われの身となったオヤジが苦笑する。  彼の右手には渡したナイフ。  どうやら、ユウトのおかげで、こちらの準備も整ったらしい。
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