第二十五章 “その日”それぞれの約束は帰る(後半)

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『空の民は平和を好く呪いにかかっておる。……それに、唯一ワタシを抑える力を持つ術は、オマエがあの女を傷つけたものだ……。取り戻したのは、その記憶だろう?』  手に、冷たい地下の感触がよみがえる。  腕を鉄に変え、オヤジを貫いたミカ。血の感触、匂い。暗がりで蠢く風の音。言うことを聞かない赤い炎に、焼けてしまった彼女の頬。  無理やり戻された記憶が、過去のことであるのにも関わらず、つい最近のできごとのようにやけに鮮明に蘇る。 『できるのか? あの日のように……!』  魔女の炎が蜷局(とぐろ)を巻く。  その炎を、見つめた。  キリヤは昔から、なにかと炎に縁がある。  遠い記憶の中にある、父の魔法。  村を焼いた烈火。  ミカを傷つけた魔法。  良い記憶もある。が、頭に残っているのは大概思い出したくないような記憶で、その中でいつも炎が燃えていた。  当然、自らの使う魔術も炎。自らの魔法で過去がよみがえり、戸惑うこともあった。  嘲笑うように燃える黒炎が、キリヤを締め上げるように覆う。  文字通り『九炎条』も炎を模した術だ。確かに、使うことは避けていた。 「あなたは、俺について少し勘違いをしているよ」  しかし、避けていた最大の理由は、そこにはない。
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