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――厳しき故の慈悲を降らせよ――
「俺はあなたに土地を還したいんだ。魔族が平和に暮らす、あなたの愛した土地を。だから――」
彼の頭上に、白い煙のような光が漂う。
それは雲のように広がり、偽の空を隠して広がった。
「八条【白雨】―解け―」
白く輝く雨が、洞窟に落ちる。
黒い炎も、赤の烏をも解き、全てを空に返した。
残ったのは、元の――オヤジの母親の姿に戻った魔女だけだ。雨に打たれる彼女は、力なく地面に座り、キリヤを恨めしそうに睨んでいる。
「だからまた、リーリエンに咲いて欲しい」
その場に跪き、キリヤは彼女に悲し気な笑顔を向ける。
「それがあなたへの、最初で最後の祈り」
そう噛みしめるように発すると、キリヤは地面に手をついた。
――祝福を与えよ――
彼の周りを淡い紫が包み込む。
大気を、白雨を降らせた雲を、偽の空を染め上げる。
彼の瞳に、その色が、空の色が移り込む。
淡い紫は、柔らかな雲へと姿を変える。
「九条【紫雲】―満たせ―」
雲が、広がる。
広がった雲はいくつもの囁きに触れ、小さな光へと変えた。
雲は魔女をも包み込み、彼女に触れる。
苦しげにうずくまった魔女の背から、囁き声が溢れ、光に変わって瞬いた。
雲は洞窟を満たし、淡い紫と数多の光で溢れかえる。
その数多の光を、その膨大な数の声を、淡い紫を移した瞳で、キリヤは記憶に焼き付けるように見つめた。
九炎条の九つ目は“祝福”。
心や魂を鎮める魔法。
力の姿も、魔法の対象物も雲のようにつかみ所がない故に、過去の使い手が、どこにも詳しく書き記すことができなかった魔法だ。
キリヤの頬を汗が垂れる。
長い距離を走った後のような、荒れた息が口からこぼれた。
紫雲を使ったがために聞こえた数多の声に耳を傾け、九炎条を酷使し続けたツケ。彼は膝に手をつき、うなだれる。
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