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キリヤの肩越しに淡い黒が集まり、手へと変わる。
柔らかで上品な女性の手へ。“彼女”は、魔女だったソレを、割れ物でも扱うようにそっと拾い上げる。
それは、ユリの花。
黒手の影響で黒いが、細い茎に蕾と葉をつけ、凛々しく咲く花だった。
受け取るために手を出す。が、“彼女”は意地悪くキリヤから遠ざけ、その花をオヤジへと差し出した。
両手でそれを受け取るオヤジが、戸惑うように笑う。
「……振られたな」
「五月蠅いな」
黒手に慰めるように優しく頭を撫でられ、オヤジに微笑まれ、どうも腑に落ちない状況にキリヤはため息をついた。
「【黒手】―解く―」
黒手はキリヤをからかうように、コツンと額を小突いて消えた。
キリヤの瞳に光が戻る。
「……まさか、息子に花を持たされるとはね」
「しょうがなくだよ。オヤジがここまで鈍いとは思わなかったけど」
気が付かなければ、手を変えなければならないところだ。
汗を拭いながら毒づけば、オヤジはへらっと笑う。
「魔女の内に、黒手を流し込む必要があったんだ」
土地を離れても、500年以上消えなかった恨み。九炎条に払う力があるとはいえ、闇雲に魔法を放って消すことができるとは、端から思っていなかった。
それに、確かに魔女は仇だが、土地神ごと消す必要はない。
今のリーリエンの住人は、オヤジひとり。つまり、土地神はしばらくオヤジの思考に支配されることになる。戻すことさえできれば、あとは時間が解決するはず。
となると、とることのできる方法は限られた。出来るだけ魔女の力を削いだ後、黒手を流しこみ、内から支配する。
それをどう実行するか考えていた矢先、届いたのがオヤジの発言だった。
――僕は完全に壊さなければならないよ。君を、リーリエンに残してきた遺恨を、消し去らなければならない。次に生きる者たちのためにね。
「ああいうのは、その気がある奴がやったほうが外さない」
ユウトがいい例だ。彼の“その気”がどこからきたものなのかは、キリヤが知る由もないわけはあるが。
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