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「ふーん」オヤジは興味なさ気に相槌を打つと、「あ゛ー疲れたねえ」伸びをした。その間もユリの花を大切そうに抱える彼は、「ミカちゃん大丈夫かなー」ミカの心配をする。
壁の中で座っていただけのくせに。その言葉を飲み込み、キリヤは答える。
「大丈夫。隙を見てコポを送った」
ユウトがひと騒ぎ起こしているうちに。
魔女の心臓、いや、正式には土地神の依り代。それがリーリエンに着けば、焦る必要もない。
ここまで考えて、キリヤは気がついた。
矢面に立つ。そう心に誓っておきながら、結局オヤジにもミカにも、ユウトにまで先に走られてしまったのか、と。
格好悪いなと、内心で自嘲する。
「さすが」
そんな心境を知らないオヤジが、軽く笑い、急に真剣な顔つきになって、花に目を落とした。
そうして何を思ってか、少し寂し気に笑い、偽の空を見上げる。
「……なるんだね。魔族の主に」
「ああ。なったらしい」
肯定したキリヤも偽の空を見る。
晴れているが、どこか悲し気な青が広がっていた。
「じゃあ、僕はお役ご免だな」
届いた言葉に慌ててオヤジに視線を戻す。彼は、眉を下げて笑っていた。
「廊下、来る時見ただろう?」
「ああ……」
キリヤは血で濡れた廊下を思い出す。
オヤジが歩いた後にできた、死体の山。死屍累々とは、あれのことをいうのだろう。確かめたが、ひとりとして息はなかった。ほぼ一突き、一撃で息絶えていたのだ。
「僕は簡単に人の命を奪える。奪ってきたんだ。これが君のオヤジだよ」
ユウトも分かっただろうなあ。なんとなしに呟く声色は、明るく装っているのに、絶望に溢れている。
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